こんにちは、ヴェリ歯科クリニック院長の田島です。
ドックベストセメント治療というのを知っている方はいますでしょうか。
神経を抜かないで治療できる特殊な治療法です。
そんなドックベストセメント治療も全ての方に利用出来る万能な治療ではありません。
今回は治療上、どうしてもドックベストセメント治療ができない、お勧めできない症例についてお話します。
目次
ドックベストセメント治療
ドックベストセメントはその中に銅や鉄などの成分が含まれたセメントです。
主な働きは銅イオンが虫歯菌を殺菌して、他の成分で虫歯に侵された部分に歯の再生を促す働きがあります。以前カッパーセメントという銅を主成分として販売されていたセメントがありますが、ドックベストセメントはこれに改良が加わったものになります。
ここで覚えていただきたいのが銅の殺菌効果です。
銅の殺菌
銅の微量な金属成分は虫歯菌だけでなくいろんな菌に対して殺菌効果を発揮しています。
我々は銅のいろんな分野でその恩恵をもらっています。
例えば抗菌スポンジや銅製の三角コーナー。抗菌スポンジは銅の成分が含有されていることで除菌、消臭効果があります。
銅製の三角コーナーは使用することで滑り予防、汚物の付着がステンレスに比べ少ないことがわかっています。
また下水処理場で銅版を使用していることで藻の繁殖を防いでいます。
最近の研究ではインフルエンザウィルスやノロウィルスにも不活化できる研究データがあるようです。
さらに食中毒で有名な菌、o-157に対しても不活化効果が銅にはあるようです。
このように銅の殺菌効果を歯科治療に取り入れたのがドックベストセメントになります。
しかしドックベストセメント治療で全ての虫歯が殺菌できて神経を取らないで済むかといったらそういうわけでもありません。
どのような時にドックベストセメントが適用できないか、お勧めできないか、症例別に紹介します。
ドックベストセメント治療が失敗するケース
神経がすでに死んでしまっている方
来院された時に虫歯が進行しすぎてすでに歯の神経が死んでいたり、腐っていたりする方がいます。ドックベストセメントは神経を残すための治療ですので、すでに神経まで虫歯菌が到達している場合はセメント治療をする意味はありません。
直ちに治療法を切り替えて根の治療を行うことをお勧めします。
神経ギリギリまで虫歯が進行していかなる刺激にも反応が強い方
この状態はまだ虫歯が神経までは達していないが神経の閾値が上がっている証拠です。この閾値がさらに上がって次第に歯髄炎になる恐れがあります。
ドックベストセメント治療の後で痛みが出てくることもあります。
ドックベストセメント治療ができる可能性は多少ありますが、その後のリスクも踏まえた上で治療に同意していただくことをお勧めします。
閾値とはセンサーの過敏性のことで段々神経が空気や水などの刺激に過敏になってくるとおもってください。
歯がズキズキと痛んでいる方(すでに歯髄炎になっている方)
歯がズキズキと痛んでいる状態、これは歯髄炎という状態です。この状態になると神経を取り除かなければ痛みは取れません。
無理に治療を行いますとセメントの刺激や、他水、空気の刺激が痛みを増発させる可能性がありますので、神経を取る方で考えていただくことをお勧めします。
歯ぐきの下深くまで虫歯が進行している方
虫歯の範囲が多すぎて歯の損壊状態が多い方に見られます。
特に虫歯の進行が神経側に進行しているだけでなく歯ぐき側に深く進行してしまうと複雑です。
通常歯ぐきの下(歯肉縁下)に虫歯が進行してしまった場合、それが些細な場合ならレーザーなどで歯ぐきを整形して虫歯を治療できますが、深い場合クラウンレングスと呼ばれる歯ぐきを下げる治療をしなければなりません。
クラウンレングスをしてもっても歯ぐき2〜3mm下げるのが限界です。
それ以上に虫歯が進行している方は神経側の虫歯がたとえドックベストセメントが治療できる症例だったとしても歯ぐき側の虫歯によって神経を残す、残さないの次元の話ではなく歯を抜歯するかしないかの状態にまでなってしまいます。
治療の前に状態を精査していただきしっかりと残せるかどうか診断していただく必要があります。
歯が虫歯によって割れてしまっている方
歯が割れてしまっている方はその割れている状態にもよりますがドックベストセメントで治療できる場合と、できない場合に分かれます。
破折ライン(割れている線)が根元まで到達している方は歯の保存がそもそも難しい可能性が出てきます。またクラウンレングスやエクストルージョンで治療できない場合も抜歯の可能性が高いです。
その他
ドックベストセメント治療のデメリットについて納得できていない方
こちらは私見になるのですがドックベストセメント治療は万能な方法ではありません。治療によってうまく神経を残せた方もいますし、残念ながら神経を取らざるをえなかった方もいます。
また最初は効果が得ていたものの何年後かに神経が死んでいた方も見られます。
この治療法をするために、一番大切なことは患者様と担当の先生が話し合ってお互いの信頼関係の元で治療が行われることが望ましいと思っております。
ドックベストセメント治療と失敗するケースのまとめ
ドックベストセメント治療法はそれまでの神経を取らない治療に比べると画期的な治療法です。
それまで行われていた3mix治療や他の治療に比べると優れており全国の歯科医院にさらに普及されることが予想されます。
しかし一つだけ言うとしたら、この治療法は医療データ、医療論文などがまだ日本含めて他海外から数例しか発表されていない治療法です。
我々医療をする上でその指針になっていることがEBM(エビデンスベースメディシン)です。
医療証拠とも呼びますが、このEBMが揃っていないことがネックでドックベストセメントが海外で普及せず日本だけで流行っているのが現状です。今後日本独自の治療法になってしまう可能性が高いため、さらに論文や研究がされてグローバルスタンダードになることが今後の課題ではないでしょうか。
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